はじめに
亡くなった家族からの遺産を受け継ぐかどうかを決めることは、感情的にも経済的にも大きな影響を及ぼします。相続放棄をすれば、遺産に伴う債務や責任から解放されますが、同時に遺産の受け取りを断念することになります。
しかし、相続放棄をしても、すべての財産を手放さなければならないわけではありません。法律上、特定の種類の財産は相続財産とは見なされず、相続放棄をしても受け取ることができるのです。本記事では、相続放棄をした場合でも受け取れる財産について、詳しく解説していきます。
生命保険金
相続放棄をしても、生命保険金は受け取ることができます。生命保険金は相続財産とは別物と見なされ、相続放棄の影響を受けません。ただし、受取人が誰に指定されているかによって、受け取れるかどうかが変わってきます。
受取人が指定されている場合
生命保険金の受取人が故人ご本人以外の人(配偶者、子供、親族など)に指定されている場合、相続放棄をしても生命保険金は受け取ることができます。この場合、生命保険金は相続財産ではなく、受取人個人の固有財産と見なされるためです。
受取人が故人の場合
一方で、生命保険金の受取人が故人ご本人に指定されている場合、相続放棄をすると生命保険金を受け取ることはできません。この場合、生命保険金は相続財産の一部と見なされるため、相続放棄をすれば受け取る権利はなくなってしまいます。
したがって、生命保険金を受け取りたい場合は、事前に必ず受取人が誰に指定されているかを確認する必要があります。受取人が故人である場合、相続放棄をしないことが賢明な選択肢となる可能性があります。
遺族年金・未支給年金
相続放棄をしても、遺族が受け取れる年金給付はあります。遺族年金や未支給年金は、相続財産とは別の権利として遺族に支給されるものです。
遺族年金
遺族年金は、亡くなった人が受給資格を得ていた公的年金の種類によって、支給要件や支給額が異なります。たとえば国民年金の場合、子のある配偶者や子に対して支給されます。厚生年金の場合は、子のある配偶者のほか、父母などの年金受給者と生計を同じくしていた人にも支給されます。
遺族年金を受け取るためには、一定の手続きが必要です。しかし、相続放棄の有無に関わらず、遺族自身の収入などを基準に支給が決定されます。したがって、相続放棄をしても遺族年金を受け取ることができるのです。
未支給年金
未支給年金とは、亡くなった人が受給する予定だった年金のうち、死亡前に支払われていなかった分のことを指します。相続人でなくても、死亡時に生計を同じくしていた配偶者や子どもなどの一定の遺族が、未支給年金を請求できるとされています。
未支給年金は相続財産ではなく遺族個人の収入と見なされるため、相続放棄をしても受け取ることができます。ただし、受給要件を満たしていることが条件となります。
死亡退職金・未払い給与
亡くなった人が働いていた会社から支払われる、死亡退職金や未払い給与についても、相続放棄をしても受け取れる可能性があります。ただし、受取人がだれに指定されているかによって判断が分かれます。
受取人が遺族の場合
死亡退職金や未払い給与について、受取人が亡くなった人ではなく、遺族に指定されている場合は、相続放棄をしても受け取ることができます。この場合、これらの金員は遺族個人の収入とみなされるためです。
ただし、会社の就業規則などで受取人の指定方法が決められていることが多いので、具体的な内容を確認する必要があります。遺族が受取人に指定されていれば問題ありませんが、亡くなった人が受取人となっている場合は、相続放棄をすると受け取れなくなります。
受取人が故人の場合
一方、死亡退職金や未払い給与の受取人が亡くなった人自身に指定されている場合、これらは相続財産の一部と見なされます。そのため、相続放棄をすれば受け取ることはできなくなります。
このように、死亡退職金や未払い給与についても、生命保険金と同様に受取人がだれに指定されているかが重要なポイントとなります。事前に確認しておくことが賢明です。
香典・ご霊前
相続放棄をしても受け取ることができる代表的な金品に、香典やご霊前があげられます。これらはあくまで遺族への贈与として支払われるものであり、相続財産とはみなされません。
香典
香典とは、葬儀の際に遺族に渡される金品のことを指します。冠婚葬祭の一つである「葬」における「祭」に対する礼金であり、身内や友人、知人から贈られます。金額の相場は、身内なら3万円前後、友人知人なら1万円前後が一般的です。
香典は遺族への直接の贈与とみなされるため、相続財産には含まれません。したがって、相続放棄をしても香典を受け取ることができます。ただし、病気療養の際に預けていた香典返しの金品は、相続財産の一部となる可能性があるので注意が必要です。
ご霊前
ご霊前は、通夜や告別式で故人の遺影の前に置かれる、お金や供物のことを指します。香典と同様、ご霊前も遺族への贈与とみなされるため、相続財産には含まれません。
霊前に供えられたものは、通夜や告別式の主催者である遺族に帰属します。したがって、相続放棄をしても受け取ることができます。ただし、故人の遺品や預貯金などとご霊前が混在していた場合、相続財産とみなされる可能性があるので注意が必要です。
祭祀財産
相続放棄をしても受け取れるもののひとつに、仏壇やお墓、位牌など、いわゆる「祭祀財産」があります。これらは経済的な価値はありますが、宗教的な意味合いが強いため、相続財産とは別扱いとされています。
仏壇・位牌
仏壇や位牌は、家族の先祖を祀る宗教的な意味合いが強い品物です。経済的な価値はあまりありませんが、家族にとっては重要な祭祀用の財産といえます。
仏壇や位牌は、家族で引き継がれていくべき祭祀財産とみなされるため、相続財産には含まれません。したがって、相続放棄をしても、これらを受け継ぐことができます。法的にも相続財産とは切り離されているため、安心して引き継ぐことが可能です。
お墓・永代供養
家族のお墓や永代供養に関する契約なども、祭祀財産の一種です。お墓は一定の経済的価値がありますが、宗教的な意味合いから相続財産とはみなされていません。
お墓や永代供養の契約を相続することは、単に経済的価値を受け継ぐというよりも、先祖を敬う宗教的な意味が強くなります。そのため、相続放棄をしてもお墓や永代供養の契約は引き継ぐことができます。
まとめ
本記事では、相続放棄をしても受け取れる主な財産について解説してきました。生命保険金、遺族年金、未支給年金、死亡退職金、未払い給与、香典、ご霊前、祭祀財産など、様々な種類の財産が対象となります。
しかし、一般論を述べているだけでは実際の事例に当てはめるのは難しいでしょう。受け取れる財産の種類は、受取人の指定状況や各財産の性質によって異なるためです。そのため、相続放棄を検討する際は、専門家に個別の状況を相談することをおすすめします。
相続には複雑な手続きが伴いますが、賢明な判断と適切な対応により、遺された財産を有効活用することが可能です。遺された方の最期の願いを尊重しながら、自身やご家族の利益を最大限に守れるよう、相続に関わる専門家に相談することが重要なのです。
よくある質問
相続放棄をしても受け取れる財産はありますか?
はい、相続放棄をしても受け取れる財産がいくつかあります。生命保険金、遺族年金、未支給年金、香典、ご霊前、祭祀財産(仏壇、位牌、お墓)などが代表的な例です。ただし、受取人の指定状況や財産の性質によって状況が異なるため、専門家に個別に相談することが重要です。
相続放棄後に生命保険金を受け取れますか?
生命保険金の受取人が故人以外の人(配偶者、子供など)に指定されている場合は、相続放棄をしても生命保険金を受け取ることができます。ただし、受取人が故人ご本人に指定されている場合は、相続放棄をすると生命保険金を受け取れなくなります。
相続放棄をしても遺族年金は受け取れますか?
はい、遺族年金は相続財産とは別の権利として遺族に支給されるものです。そのため、相続放棄の有無に関わらず、遺族自身の収入などを基準に支給が決定されます。
相続放棄をしても死亡退職金や未払い給与は受け取れますか?
受取人が遺族に指定されている場合は、相続放棄をしても死亡退職金や未払い給与を受け取ることができます。一方で、受取人が故人に指定されている場合は、相続放棄をすると受け取れなくなります。事前に確認しておくことが重要です。